Institute of Social and Economic Research, Osaka University

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研究の背景・目的

日本経済は1990年頃を境に、それまでの順調な成長局面から20年以上も続く長期不況に陥った。同様の事態は欧米諸国でも現れている。従来の経済学ではこの不況を短期の調整局面としてしか考えず、経済政策も短期不況を念頭にしており、思うような成果が出ていない。実際、以前には効果のあった金融緩和が、近年まったく効果を失っている (図1)。そのため、新たな長期不況の理論の確立が急務である。


本研究では、マクロ経済動学の枠組みに従来考慮されていなかった多面的な人間行動を導入し、長期不況を解く理論的枠組みを確立する。
また、本理論の前提となる人間行動の妥当性については、計量経済学とともに実験経済学の手法も取り入れて検証する。さらに、長期不況に陥った経済に必要な経済政策や制度改革のあり方を示す。

研究の方法

金融融資産の保有願望、消費願望と資産保有願望の大きさの比較、地位選好と資産保有願望との関係、目先の誘惑と長期的な消費計画との葛藤などを、経済実験やアンケートなどの行動経済学的手法と計量経済学に基づく実証分析によって解明し、長期不況をもたらす要因となる人間行動を抽出する。 つぎに、この結果に基づき動学マクロ経済理論を再構成し、長期不況の可能性を探る。また、各種経済政策の景気への効果を理論的に分析する。 さらに、メカニズム・デザイン、産業組織、公共経済学などの手法を活用しながら、都市や住環境、高齢者医療などの具体的事例を念頭に、総需要不足がもたらす遊休資源を最適に活用するための公的制度の設計を試みる

期待される成果と意義

長期不況の理論は経済政策の考え方に根本的な転換を迫る。短期不況なら、財政出動と金融緩和によって市場の調整を補完しながら、長期的には生産力を向上させればよい。しかし、長期不況であれば金融緩和は効かず、生産性の向上は遊休資源を増やして逆に不況を悪化させる。そのため経済政策のあり方は大きく変わり、遊休資源を市場の調整に任せず活用することが必要になる。本研究では、人々の選好を非市場的な手法で把握しながら、遊休資源の活用につなげる公的制度のあり方についても考察する。 こうした知見は、長期的な停滞に直面する現在の日本や欧州諸国、米国などの先進諸国にとって重要であるだけでなく、今後、経済成長によって成熟社会を迎えると思われる新興国に対しても、きわめて重要な示唆を与えることができよう。

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