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事業実績

組織班

 

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  本研究は企業組織の行動に関して仮説を立て検証するという経済学と経営学の学際領域の科学的な基礎研究として位置づけられる.研究目的は,組織間関係と組織学習を通じた個人と組織の意思決定過程の相互依存構造を理論と実験で解明することである.以下,各年の研究成果を要約しよう.

19年度においては,まず経営学における組織の先行研究に関する勉強会を下村が神戸大学で開催し,研究分担者全員が参加し他大学の研究者との共同研究体制の基盤を整備した.組織構造の研究のために「ビジネスゲーム」という経営学の学習用ソフトウェアを利用し, この研究会を開催してパイロット実験を行ない,求められている組織間競争のモデリングが既存のビジネスゲームにどの程度組み込まれているかについて討議した.組織間競争の理論モデル化と実験設計については, 下村がチャールズ・プロット教授(カリフォルニア工科大)と意見交換を行ない,従来のダブルオークション形式の実験が有する限界と改良の可能性について討議を重ねた.また,山地・後藤は組織間競争の研究のために,企業組織を評価する証券市場の特性について理論と事実を整理する必要があることを確認した.それを受けて山地・後藤は証券市場における心理的影響による価格形成の歪みを実験的に確かめる研究を行ない,その成果につき実験会計学の権威シャム・サンダー教授(イエール大)を招聘し指導助言を受け,神戸大学で研究フォーラムを開催した.

20年度においては,前年度の勉強会の学習を踏まえ,海外(米,ベルギー)の研究者の指導助言の下での組織の理論モデル構築,国内の理科系の研究者の協力を得ての脳のfMRI 実験,そして前年度に引き続きビジネスゲームの応用可能性の開発について試論的研究を行なった.組織行動の理論モデル化について下村・磯辺は,情報でなく実物的な変化(たとえば大企業の数)に対して,市場と組織はどのように反応するかを実験する方法論について議論を行なった.その結果,データによる実態調査が必要であるという結論に達し,研究計画を立て,磯辺が調査を開始した.山地・後藤は,証券市場で投資家間に情報保有量の差異がある場合は,心理的な影響が出て効率的市場仮説(より多くの情報を獲得した投資家がより多くの利益を獲得する)に基づくような投資家間での利益獲得額にはならない可能性がある点に注目した.情報獲得量が市場で中間階層にある証券投資家は,証券市場での買い・売り注文が情報保有量がより少ない投資家からかより多い投資家から出たものか分からないため取引を躊躇するために,情報保有量がより少ない投資家やより多い投資家よりも利益獲得額が少なくなる可能性が高い.山地・後藤はこの仮説を確認するためにコンピュータLAN で形成された仮想証券市場を使って,情報格差がある6 人の証券投資家(被験者)が参加するダブルオークション取引実験を行なった.実験結果は半数ほどの実験で中間情報獲得投資家(被験者)2人が,他の4人の投資家よりも獲得利益が最低になった.また平均では,中間情報獲得投資家2人の利益が最低となった.その理由が中間情報獲得者の躊躇にあるという仮説を明確に確認するため,同じ状況下でfMRI を用いた脳実験を9回行なったが,躊躇を司る脳部分の活性化を示すデータは得られず,引続き脳実験を行なう計画を立てた.さらに小笠原・又賀は上級経営管理者及び起業家の意識醸成と事業経営・組織運営に必要な知識及びノウハウの具体的な中身に関する研究及びその習得のための教育訓練法の構築のために,大学・大学院での授業で簡単なゲーミングソフト(パソコン販売を模したPG21 といった既存のゲーム)などを使用して仮想経営演習及び討議形式の授業を行ない,必要データを与え経営会議を開かせる形で繰り返し責任を明確にしながら将来数期にわたる意思決定を行なわせた.授業では,アジェンダシート(意思決定過程記録シート)を記入させたり頻繁な各グループとのヒヤリングを繰り返したりすることにより,意思決定過程に関するデータを収集した.その結果ビジネスゲームの仮想現実の中で意思決定や戦略策定などを経験することは,中長期的なゴーイング・コンサーンとしての事業展開,戦略構築が必要であることを理解するのに大いに効果があることが分かった.またアジェンダシートを後で参照することにより意思決定プロセスでの意識の変化を把握できた.

21年度においては,前年度までで定まった組織理論モデル構築,fMRI実験,ビジネスゲームという3つの研究方法を担当の分担者がそれぞれ特定の問題に適用し「有意味な実験が可能か」について考察した.まず下村の統括の下,磯辺は多国籍企業による国外市場への参入という意思決定が,自社だけでなく,他社による過去の参入や撤退に影響されるという仮説を導き,多国籍企業による海外市場への参入の意思決定について,企業間の相互依存的な側面について研究を行った.東洋経済新報社の「海外進出企業総覧」の大手エレクトロニクス企業8社のデータを使用し,分析のため158,400サンプルのマトリクスデータを作成した.このデータには,観察期間に設立された現地法人4,349社が含まれている.その結果,多国籍企業の海外市場への参入の意思決定は,現地業界レベルにおける他企業の過去の参入や撤退の意思決定と逆U字形の関係をもつことを発見した.さらに自社レベルにおける過去の参入や撤退は,その後の自社による海外市場への参入の意思決定にほとんど影響しないことも発見した.このことは,日本の多国籍企業による海外市場への参入の意思決定は,自社よりも他社の意思決定に強く影響されることが示唆された.山地・後藤は,証券市場では効率的市場に依拠すれば,市場で保有されている情報の保有構造に関係なく,情報は市場価格に適正に反映されているはずであると考え,情報の保有のあり方により市場価格への反映程度が異なるのかを実験した.そのために,山地・後藤はニューヨーク証券取引所で実施されているオークショネアーをコンピュータ内にプログラムで実現させ,コンピュータLANで形成された仮想証券市場実験を行った.その結果,一部の市場参加者にしか行き渡っていない情報は価格形成に反映される程度が少なく,また先に取得された情報は後から取得された情報に比べてより強く反映され,期待よりもより良い方向に歪められた情報はより強く価格形成に反映されることがわかった.小笠原・又賀は経営上の戦略策定における将来必要数値の推定,算定のための実用的機能的な推計法などのツール及び手法の開発の研究を行なった.その結果,リスクに対する姿勢(許容度)を一つの組織特性(企業の成長力)として捉えること,また簡便な類型化の方法(特性モデル分類法)としてMMIモデル(Moral, Morale, Investment (Information, Intelligence))を提案した.更に,50%ルールと呼ぶ簡便的な三角形分布と汎用される正規分布などの定番的計量分析の仮説の比較を通じて,より実用的かつわかりやすい近似的な予測数値算定手法を提案した.そして,事業価値算定及び投資採算性の分析のための方法として,いわゆるリアル・オプションの考え方を適用した実践的シミュレーションによる近似法の構築を進めている.

 

大阪大学社会経済研究所 西条研究室 Tel:06-6879-8582 Mail:secsaijo@gmail.com