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ExpSS21 実験社会科学の概要

市場班

研究課題名: 市場制度の分析と設計

  本研究の目的は,被験者を用いる実験研究を通じて,市場の振る舞いはどのようなものであるのか,問題があるとしたらどのように制度を設計すればよいのかを検討することである.
 「外部性や不確実性がない場合,多数の売り手・買い手がいるのならば市場は機能する」というのが20世紀後半から現在に至るまで研究者の間で共有されている知識である.この知識そのものは多くのデータで確認されたというよりも理論に基づく信念に近いものであった.これが被験者を用いた実験室の中で確認されたのは20世紀後半である.貯蔵が困難であるような財の場合,売り手,買い手の各々が10人前後という少数者の場合にでも,需要曲線と供給曲線の交点にほぼ落ち着く取引制度を設計できるのである.そのひとつがダブル・オークションである.
 一方,金融市場における不確実性,物の取引である実物市場の背後に潜む投資の不確実性などがあると「市場の失敗」が生起するといわれているものの,どのように失敗し,どうすればそれが克服できるのかに関する知識は十分とはいえない.この背後には単純な経済的な利得のみを最大化するという想定では説明しえない人々の行動特性がある.この意味で意思決定班,文化班,集団班,組織班などにおける成果と直接連携することになるであろう.
 実際の金融市場ではバブルが起こることが観察されているが,バブルに関しては実験研究者の間で合意はない.金融市場における解消しがたい不確実性に直面した人々は期待利得を最大化するという単純な行動をしているのだろうか.またそのような人々が集まると価格変動にどのような影響を与えるのだろうか.一方,実物市場においては投資の不確実性がある.投資の意思決定を今しても実際にその生産効果がでるのは先になるというタイムラグ,いったん投資の意思決定をすればそれをもとには戻せないという非可逆性という二つの特性に対し,各々の主体はどのように行動するのであろうか. また各主体はどのように影響しあうのであろうか.
 公共調達のように一人の買い手が複数の売り手に直面するオークションにおいては複数単位の同一財や複数財の同時取引に関する研究は未開発である.また,相手を出し抜くというスパイト行為がオークションの実験結果に重要な影響を与えることなどが明らかにされ始めている.どうも従来の理論通りには人々が行動していないようである.
 以上のように実験研究を通じて各経済主体の行動特性と集団としての振る舞いを明らかにし,これらの研究成果に基づいて,どのような制度設計をすればよいのかが本研究の課題である.
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