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ExpSS21 実験社会科学の概要

社会班

研究課題名: 社会関係資本の機能と創出

  R.D.Putnam(1993, 2000)によると,社会関係資本は「社会的ネットワーク,およびそこから生じる互酬性,信頼性の規範」であり,それは社会的ジレンマにおける協調行動を促し社会全体の効率性を改善しうる.社会関係資本の重要性を強調する研究は増加しつつあり,これらの研究の中には社会調査による社会関係資本の有無・多寡の実証的分析や,数理モデルによる社会関係資本の理論的分析などがある.しかしながら,現在のところ適切な社会関係資本の指標が確定しておらず,したがって,社会関係資本の存在が社会的ジレンマ解消の一端を担い,効率性促進に寄与しているかどうかも明らかになっているとはいえない.本研究の目的は,実験手法を用いて,適切な社会関係資本の尺度を構築し,社会関係資本が全体として効率性を増加させるどうかを検証する.また,社会関係資本の役割を具体的に明らかにすることは,公共財を適切に供給する制度をデザインする際にも有益である.具体的には以下の研究を行う.①社会関係資本と協調行動に関する実験:社会関係資本が豊かな地域に住む人々と乏しい地域に住む人々を被験者とし,贈与交換(gift exchange)ゲーム実験や社会的ジレンマゲーム実験などにおける協力行動の差を調べる.社会関係資本が人々の協調行動を促す作用を実際にもつかどうかを検証する.②公共財供給における社会関係資本の形成に関する実験:公共財供給の経済実験では,利己的行動,利他的行動,スパイト行動などが様々な行動が観察されているが,まだ統一的な分析が十分に行なわれていない.どのような環境の下で,これらの行動がおこるのかを識別し,公共財供給における社会関係資本の形成に必要な条件を明らかにする.③社会関係資本の集団拘束性に関する実験:社会関係資本は人々の協調行動を促すものであるが,その協調行動が内集団において発展し,外集団に対して敵対性を帯びるのであれば,社会全体としては必ず好ましいものでない.集団への帰属が社会関係資本の進化に与える影響を分析する.④規範的感情と社会関係資本形成に関する実験:「感情」が人々の経済行動に影響を及ぼすことはよく知られている.その感情の中でも「~すべきである」という価値規範に関わる規範的感情が,贈与交換ゲーム,社会的ジレンマゲームなどにおける利他的行動,協調行動,互恵的行動などの意思決定にどのような影響を与えるのかを明らかにする.⑤社会関係資本とメカニズム・デザインに関する実験:効率的で公平な資源配分の実現を可能にするメカニズム・デザインの数理的研究には長い蓄積があるが,その実効性については問題も多い.理論的に性能のよいメカニズムを実際に機能させるために,社会関係資本が果たす役割を実験で分析する.
 「社会班」と他班の関係は以下の通りである.「文化班」,「意思決定班」,「集団班」は制度を構築する人々の意思決定を規定する要因を明らかにすることによって,「社会班」の研究にミクロ的基礎を与える.「市場班」,「政治班」,「組織班」の研究は,「社会班」が実効性ある社会関係資本論(例えば公共財供給問題の現実的な解決法)を提言するために必須である.なぜなら,社会関係資本の有無は社会的ジレンマにおける人間の協調行動や互酬的行動に影響を与えるので,「市場」,「政治制度」,「組織」でも生じる社会的ジレンマの解決にも密接に関連するからである.以上のように「社会班」は他の5班と連動しながら研究を推進し,6班全体をつなぐリンクの役割を果たす.
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