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ExpSS21 実験社会科学の概要

集団班

研究課題名: 集団行動と社会規範

  本研究は,人間集団の根幹を成す「社会規範」の問題を中心に,人の認知・感情特性の働きを適応的な視点から検討し,領域全体のテーマである実験社会科学の確立に向けて,堅固な基盤となり得るモデルを提供することを目的とする.近年,人間の社会行動に関する研究は,社会科学内での検討に留まらず,行動生態学・進化生物学・神経科学を初めとする,ヒトを対象とした自然科学領域との間に,急速な学問的連携を作りつつある.本研究は,社会規範の形成と維持,互恵性を支えるメカニズムなど,社会科学の根本を成す問題群に,ゲーム理論を軸とする数理モデルと行動・生理実験を組み合わせることでアプローチし,規範を支えている認知・感情特性群の働きを明らかにしていく.具体的には,以下の2つの研究を行う.
 ① 規範を支える感情システムの構成に関する検討:社会規範は,生れ落ちた社会・生態環境に応じて個人がそれぞれ能動的に適応していく中でゲーム理論的均衡として,集団・社会に創発・定着する.こうした社会規範の性質を理解する上で,従来のゲーム理論モデルは,高度に知的で合理的な個人の,認知・推論の働きを前提としてきた.しかし,規範を支えている心的なメカニズムはむしろ"非合理"な感情であり,人は,進化的に獲得した正・負の基礎感情のセットを,個人が生れ落ちた社会・生態環境の性質に応じてチューンアップしつつ,社会規範を感情レベルで心的に実装していると考えられる.この命題を,現代社会における個人の社会経済的地位(SES)の高低に注目して検討する.教育水準・収入・職位などの面で異なる社会経済的地位に属する参加者を,社会規範に関係するさまざまな実験ゲームに参加させ選択パタンを検討すると同時に,選択に伴う生理活動水準(SCR, 唾液中αアミラーゼ)の変化を計測する.また,経験サンプリングと呼ばれる調査技法を用いて,参加者の日常場面での自然な感情の流れを捕捉し,実験ゲームでの選択パタンとリンクさせることで,規範を支える基礎的な感情システムの構成を明らかにする.
 ② 規範を支える行動・認知メカニズムの作用に関する検討:互恵性などの社会規範を支える行動・認知レベルのメカニズムとして,従来のゲーム理論モデルは,ゴシップや評判などの伝達行為,罰や報酬などの選択的誘因を与える行為,の2つを理論的に明らかにしてきた.しかし,これらの行為が人間にどのような心的アルゴリズムとして実装されているのかについては明らかにされていない.本研究は,以下の問いについて実験的検討を行う.ゴシップや評判を形成するための情報処理メカニズムはどのような仕組みになっているのか.個人はどのような手がかりに注目して他者に対する印象を形成するのか,またその仕組みは,領域一般的か特殊的か.同時に,二次的ジレンマ問題を越え,選択的誘因を自発的に生み出すメカニズムはどのように成立し,それは個人の規範過大視傾向(選択的誘因を自発的に与える相手の数を実際より多く見積もる傾向)とどのように関連するのか.これらの問いを,社会心理学で展開されてきた社会的認知研究と関連づけながら検討する.
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