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ワークショップ

特定領域研究
「実験社会科学-実験が切り開く21世紀の社会科学」
2007サマースクール

日時
2007年11月23日(金)・24日(土)・25日(日)
場所
北海道大学人文・社会科学総合教育研究棟W309
参加人数
53名

本サマースクールは、北海道大学社会科学実験研究センターとの共催
(参考 : 北海道大学グローバルCOE・CSMの サマースクールレポート

11月23日(金)

13:00-14:30: 蒲島郁夫、井出弘子(東京大学)
「政治学におけるfMRI実験」

既存の政治学におけるアンケート研究には、いくつかの欠点がある。これらの問題を解消する一つの手段として、fMRIを用いた研究は有力である。報告では、まず政治学にfMRIを用いた複数の先行文献が紹介されたうえで、報告者の研究内容が説明された。報告者の研究は、選挙キャンペーンにおけるCMの効果の測定である。本研究では被験者に過去のアメリカの選挙キャンペーンのCMを見せ、それがどのように脳活動に影響を与えるのかを見た。報告の中では、いくつかの議論が行われた。まず、使用している人種に関しての議論がなされた。さらに、結果の解釈について「事後的な基準で二群に分けた比較で解釈を行ってもいいのか」という疑問を中心に、本研究で用いられ探索的方法による解析による問題点が議論された。また、実験における現実の単純化に関する議論も行われた。自然科学者は刺激の単純化によって問題を追及していくのに対して、政治学者はできるだけ現実を現実のまま分析を行おうとしているという認識の違いがあることがわかった。

報告の様子

14:40-15:25: 下村研一(神戸大学)
「産業組織の実験に向けて:シミュレーションとラボ実験」

産業組織においては、組織の中の個人のふるまいでなく組織そのもののふるまいが重要である。しかし、従来の経済実験ではその点が十分に検討できないとの主張がなされた。また、産業組織実験の困難な一つの要因は、参入・退出を表現する事であるとの説明がされた。そのうえで、産業組織の研究では実験の代替としてシミュレーションが行われているとし、報告者のシミュレーション研究が紹介された。また、組織の複雑性を織り込んだ一つの実験案として既存のビジネスゲームの活用による実験が紹介された。これに対して、従来の経済学実験の手法では対象について本当に実験をする事ができないか、また、このような実験が学問研究の手法として適切であるのか、などという点が議論された。

報告の様子

15:30-16:15: 山地秀俊(神戸大学)
「被験者を主体的に合理的に行動させる方法は?」

報告では、まず被験者の行動が均衡に向かうタイプの実験とそうでないタイプの実験の結果の紹介が行われた。これに対し、「被験者の行動は均衡に向かうべきなのか?」という疑問が提示された。その後、実験結果の説明力に関して「ミクロでの説明力が必要かマクロでの説明力でいいのか」「どのレベルで人間は意思決定をしていると想定すべきか」などという点が議論された。さらに、被験者の行動の方向付けについての議論がなされた。経済学者は、フレームを与えずに実験を行うが、心理学者はフレームを実験者によって明示的に与えられる。このような差異を比較する事で、両者のメリット・デメリットが明らかにされた。

報告の様子

16:20-16:35: 竹内幹(カリフォルニア工科大学)
「アメリカのInstitutional Review Board(IRB)について 」

IRBは、人間の関係する実験において被験者を保護するために存在する。また、昨今の実験に関連する訴訟等に対して、研究者を保護するという側面もある。本講義では、アメリカのIRBの現状および、現状にいたる歴史についての解説がなされた。日本でも、近年は実験に関係した様々な訴訟がおきつつある。これに対して、積極的に対処するという意味において、IRBのような基準作りを、本プロジェクトにおいて考えてみるべきだという意見も出された。

報告の様子

16:45-: ラボ見学

北海道大学が実験に用いている設備を見学した。

18:00-: 懇親会 於:ファカルティハウス「エンレイソウ」

2007年11月24日(土)

09:00-10:30: 清水和己(早稲田大学)
「政治経済実験のプロセデュア-社会関連資本の実験に向けて」

世論調査を行う際に、コンピュータベースの世論調査を行うことで、ある種のバイアスを除くことができないだろうか?このような考えのもと報告者は、同一の調査を紙とコンピュータの両方で行い比較を行った。結果は、二つの手法で結果の違いが存在した。ただし、これらのコンピュータベースのアンケートは、様々な意味でコストがかかる。このコストを上回るメリットは何か。それが示せれば、現実に対してコンピュータベースのアンケートを用いて何らかの貢献ができるのではないかという意見が出された。次に、コンピュータベースで擬似的なストーリーを作って、ある種の投票行動に関する実験の例が報告された。また、これらの新たな手法の遂行のための手段を共有していくような方向を検討していければ良いのではないかとの事であった。

報告の様子

10:40-12:10: 西村直子(信州大学)
「An Experiment on Spite in Auctions」

まず、経済学のオークションの一般論が語られた。その上で、セカンドプライスオークションの実験で発生する、理論とは非整合な被験者の行動である現象についての説明がなされた。この原因として、被験者の相手の利得を減らすスパイト行動によるものと報告者は考えた。そして、スパイト行動とそれに対する仕返しを考えると、セカンドプライスオークションがうまくいく事が理論および実験の両面でうまくいく事が示された。質疑応答では、参加者に対してスパイトという枠組みを与えない経済学の実験手法について議論がなされた。

報告の様子

12:10-13:10: 昼食休憩

13:10-14:40: 品田瑞穂(北海道大学)
「心理学的ゲーム実験」

まず、山岸研究室における実験の具体的な手法およびそれらの実験に関連する歴史的背景について紹介がなされた。また、心理系と経済系の実験の比較として、酷似しした囚人のジレンマゲームが、それぞれの分野でどのような方法で行われるのかということが紹介された。質疑応答では、心理系は「フレームを参加者に与えその反応をみる」経済系は「フレームを極力参加者に与えず(別の言い方としては、金銭というフレームを与える、フレームを与えないというフレームを与える)反応をみる」という違いの存在が議論された。両者の考え方のメリット・デメリット、その適用可能な範囲に関しては、今後の課題となった。

報告の様子

14:50-16:20: 高橋伸幸(北海道大学)
「一般交換実験」

本報告のテーマは、財の一般交換、すなわち見返りが直接あるわけではない状況において、財の自発的供給による、交換のメカニズムが成り立つか否かである。主体が他人の行動に何らかのラベルをつけ、そのラベルがどのような条件であれば一般交換が成立するかという事に関してのシミュレーションの結果が提示された。これをもとにして実験が行われた。実験では(ある種のコントロールでは)財を供給しない人間に財を供給する人間に対して、悪いラベルをつけるという被験者の行動が観察された、などの結果が得られた。結果の解釈に対しては、理論面からの議論がなされた。ラベル付けのルールに関しては、理論から見た視点も用いて詳細な議論が行われた。また、研究で用いられている定義や均衡概念に関して、報告者と理論研究者の間で意見交換がなされた。

報告の様子

2007年11月25日(月)

09:00-10:30: 坂上貴之(慶應義塾大学)
「行動分析学を中心とした実験心理学的方法による価値測定について」

心理系の実験における共有されている注意事項のうち、心理系以外の社会科学の実験系の人間も共有しておいたほうが良いと思われる事について解説がなされた。まず、一日目のセッションでも議論の対象になった「事後的・探索的な解析による恣意性の問題」および、事前計画の重要性に関して説明がなされた。さらに、心理学ではよく知られている「各種のバイアス」に関する歴史・対策・経済実験においてどのような応用が可能か、という事が解説された。さらに、「バイアス」の存在を認識する事によって、それを織り込んで実験、あるいはそれを逆に利用して実験をする方法がとりあげられた。また、様々な刺激に対するバイアスの一つに、「現金が手元にある事による刺激」がある。これは、聴衆も関心を持ち、多くの実験で現金が手元にある事による刺激を与える装置のようなものができればうれしい、という意見が出た。最後に、このような「実験法」が本プロジェクトのような異なる分野においても構築ができれば望ましいという提案で報告は締めくくられた。

報告の様子

10:40-12:00: 総括ミーティング

大阪大学社会経済研究所 西條研究室 Tel:06-6879-8582 Mail:secsaijo@gmail.com