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ワークショップ

2008年度 第1回 理論班ワークショップ

日時
2009年2月16日(月) 13:00-16:30
場所
東京工業大学大岡山キャンパス 西9号館7階715室
参加人数
10人

 

報告概要
 

 会場の設定は、中丸麻由子さんおよび大和研、中丸研をはじめとする東工大の皆様にお世話になった。ポリコムでの遠隔地の他会場からの参加を試みたが、たまたま都合が付かない班員が多かったため、今年はビデオに収録しあとで配布することとした。

 

13:00-13:05

挨拶と事務連絡(巌佐 庸)
 

巌佐による短い挨拶と事務連絡のあと、2名の話題提供と質疑が行われた。進化生物学および経営学と分野は異なるが、広い意味で協力維持のメカニズムに関連する話題であった。

 

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13:05-13:40

大槻久(東京工業大社会理工研究科、JSTさきがけ研究者)
「合理性と進化ゲームダイナミクス」

PDF (275 KB)

 

 経済学におけるゲーム動学と進化生物学におけるゲームダイナミックスの関係について議論することをめざし、2つの話題が提供された。
 最初に、ファージ(大腸菌につくウイルス)をもちいた実験で、格子に並んだサイトの隣りあうものの間でだけ移動分散を行う場合と、遠隔の場所に分散する場合では、繁殖率や競争能力のことなるファージが進化することを紹介した。分散が局所的であるときは、遠隔地に分散する場合に比べて、競争力が弱く、より協力的なファージが進化する。これは2次元格子モデルのような空間構造のある場合とランダムな混合にある場合とで進化の結果がことなることと対応している。
 理論的一般化として、さまざまな形のネットワークに配置され、つながった相手とのゲームを行い得点を蓄積するモデルを考える。それぞれのサイトにはプレイヤーがいて協力的/非協力的な戦術をとる。ランダムに選ばれたサイトがその戦術を変更し周りにあるプレイヤーの戦術に変更する。このときゲームの得点の高いものの戦術がより高い確率で採用されるとする。その結果、協力が進化するかどうかは、協力の利益、コスト、および隣接プレイヤーの平均数という3つの量によって決まるとする結果を得た。
 次に、進化生物学におけるレプリケーターダイナミックスと経済学におけるゲーム動学との対比について議論した。レプリケータダイナミックス(より広くimitative dynamics)では、ある戦略がたまたま全体を占めるとそれ以降は、他の戦略がいくら優れていたとしても現れることがない。これに対して経済学の進化ゲームで用いられる最適応答動学(より広くinnovative dynamics)ではある戦略が全体を占めても他の戦略が良ければいつでも出現してくる。
 次に合理性の違いによりダイナミックを整理した。完全に合理的な伝統的経済学モデルの動学、次に少し誤りを含む最適反応動学、それから学習の動学、さらに自然淘汰を表すレプリケータダイナミックス、最後に完全にランダムな選択といった順序に並んでいると考えられる。
 経済学における基本的なゲーム動学は最適応答力学(best response dynamics)であり、そこでは「完全な合理性+わずかなエラー」が仮定される。一方、生物学において近年精力的に研究されている弱選択極限と呼ばれる進化ダイナミクスでは、「完全なランダムネス+わずかな合理性」が仮定される。様々な新しい理論的解析によると、モデルの振る舞いは最適応答力学とは大きく異なるが、不思議な事にいくつかの基礎的な結果は一致する。

 

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13:40-14:20

質疑と議論

 

 前半の話は有限集団における突然変異の固定確率にもとづいた議論をしている。つまりNプレイヤーの中に1名の異なる戦術をとるプレイヤーが侵入したときに,突然変異が滅ばずに全体を占める(固定)ことが生じる確率が、相互作用のない場合の1/Nという値よりも大きいときに進化的に有利として議論をすすめている。このことに対応する議論は経済学のゲーム理論ではどのようになっているのか。:例えば神取らの研究では、長時間平均でどちらの戦略が固定している時間が多いかを比較する。特にエラー率が小さな極限では、いずれかの状態にほぼ確率1で固定している。
 後半の話で、進化生物学のレプリーケータダイナミックスと最適応答ダイナミックスの大きな違いとして、後者はある挙動を全員がとると他のタイプが出現できないことが議論されたが、これはレプリケータダイナミックスにおいては突然変異として扱うのではないか。つまりレプリケータダイナミックスに突然変異を合わせたものが最適応答動学に対応するのではないか。:突然変異の方向はランダムであるが、最適応答動学では良い戦略への変更があるという点で異なるのではないか。
 両者のもうひとつの違いとしては、あるプレイヤーが戦略を変更するときに、他のタイプが集団に多いほどそちらに引かれる傾向がレプリケータダイナミックスには含まれている。これは最適応答動学であらわすとすればそれぞれの戦略の効用が集団中のその戦略をとるプレイヤーの頻度とともに増大するというpeer effectとして表現されるものではないのか。
 このように理論の間の数理的関係だけでなく実用上で考えていく、つまり与えられた現象をうまく記述し取り扱うための数理モデルと考えるとすれば、両者の関係がより明確になる。
 動学におけるステップの時間スケールはどのようなものを考えているのか。:引き続く実験のセッションといった短い時間スケールにおいては人々の「性格」は変化しない。しかしこれらは数年といった長い時間をかけて変化する可能性もある。社会の問題について議論されている進化ゲームダイナミックスの時間スケールを明確にすべきだ。またいくつかのタイムスケールが含まれていると考えられる。

 

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14:20-15:40

伊藤秀史(一橋大学商学研究科)
「関係的ガバナンス――契約設計の視点からの理論的展望――」
PDF (140 KB)

 

 国家による財産・契約の保護が限定的で信頼性がない途上経済や移行経済では自明なことであるが,先進諸国においても,紛争の解決に際して法制度が用いられる頻度は低く,法律は最後の手段でしかない.言いかえれば,経済パフォーマンスにとって私的秩序 (private ordering) は重要な役割を果たしている.さまざまな私的秩序制度のうち,当事者間の長期的・継続的関係を基礎とすることによって自己拘束的 (self-enforcing) に強制される「関係的ガバナンス (relational governance)」に焦点を当て,理論的展望を行う.
 長期的・継続的関係においては,合意からの逸脱によって短期的には利益を得られても,将来の良好な関係が失われるという長期的損失のために,合意に強制力が生まれる.これはすでに繰り返しゲームの理論で分析され,よく知られたロジックである.しかし,繰り返しゲームの理論で分析されるゲームでは,通常プレーヤー間での利得の移転は考慮されていない.他方経営者インセンティブ,雇用関係,人事制度,金融契約,垂直的取引関係,インセンティブ規制などの設計に関する問題の多くは,エージェンシー関係を枠組みとする契約理論 (contract theory) によって分析されている.標準的な契約理論はスポット取引関係をモデル化しており,継続的関係に基づくインセンティブは考慮されていない.そして立証可能な変数 (当事者の義務や自然の状態) が外生的に与えられ,その変数に条件付けられた公式の契約や制度 (移転スケジュール,決定権の配分など) は裁判所によって完全に強制される (しかし,それ以外の変数に条件付けられた合意はまったく強制力がない) と仮定される.現実には法制度も不完全であり,法的な強制は契約法,裁判所の裁量,当事者の事後的な立証行動,事前の契約記述などにも依存する.公式契約・制度の不完全な強制自体の分析も重要であるが,今回は対象とはしない.
 このように当事者の義務や自然の状態が (完全に) 立証可能か立証不可能かのいずれかである状況に限定したとき,関係的ガバナンスの利点は立証不可能な情報を利用できる点にある.ただし,立証不可能でも当事者間で観察可能で共有できる情報でなければならない.そのような情報に条件付けられた合意が,長期的・継続的関係においてどのように強制されるか,また公式制度は関係的ガバナンスに取って代わる代替的関係にあるのか,それとも互いに補完しあうのか,が主要なテーマとなる.これらのテーマは標準的な契約理論の教科書ではまだ扱われていない.

 

 

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15:40-16:30

質疑と議論

 

 ここでは協力的な行動をとることで他人に利益が生まれるという状況を想定していて、利益とコストの差し引いたものが社会全体としての良さを表しそれが高いものが望ましい制度という議論と考えてよいのか。:そのとおりで、利得が金額で測られ、移転可能であるという重要な前提があるためである。制度とはインセンテイブを与えることによって個人に社会的に望ましい協力行動をとらせるものである。
 害をもたらす行動に敷衍して考えると、害の程度に応じて罰を与えるとか、本人の責任でなく悪い結果が出た場合には、ある程度罰を減じるとか、といった議論も基本的には同じなのか。:本人の行動(インプット)が観察できないケースがそれに対応する。アウトプットに応じて賞罰を与えなければいけないが、アウトプットは本人の行動のみで決まるわけではなく不確定要因がある。適切な行動が選ばれた可能性が高いほど、罰を減じるという考え方である。
 上記の制度は理性的に設計されるとされているが、実際にどのようにして望ましい制度が採択されるのか。上記の意味で望ましい制度が実際に採用されているという実証的サポートはあるのか。:これについて、細かく議論をして行くのは交渉過程のゲーム理論であり、契約理論というのはそれをしないで単純化して取り扱う立場である。
 社会全体にとって望ましいとしても利益を受け取る人とコストを出す人とが異なるが、それが本当に実現されるのか。:これも利得が移転可能であるという前提に依拠する部分が大きい。ところで生物学でのゲームでは移転は不可能ではないか。
 もともと私的秩序によって2つの側面について協力がなされているときに、片方について法制度などによって協力を強制するときに他方の協力成立が困難になる場合と協力が促進される場合とが予測されていた。このような結果にもとづいて現実の社会の仕組みの設計が奨励されたりする例はあるか。:理論の結果にもとづいて設計された例は少ないが、現実に社会で行われている仕組みの意味を理解するという観点では、多くの整合的な事例がある。

 

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(文責、巌佐 庸)

 

報告の様子
 

 

 

 

 

 

 

大阪大学社会経済研究所 西條研究室 Tel:06-6879-8582 Mail:secsaijo@gmail.com