西村さんは、高齢者の就労行動を資産蓄積を考慮した動学的意志決定問題として定式化し、その動学的意志決定モデルを日本の高齢者パネルデータを使って構造推定を行いました。さらに、推定されたパラメータをもとにシミュレーション分析を行い、年金の制度変更が高齢者の就労行動に与える影響を定量化しています。公的年金制度改革が喫緊の課題とされる中で、西村さんの研究は高齢者の就労行動を動学的意志決定問題として適切にモデル化し、ミクロデータを用いて実証分析をおこなった精緻な経済学研究として高い評価を与えることができます。
牛島さんは、2002年のタイの医療制度改革に伴う子どもの入院率増加には母親の教育水準による有意な差があることを示されました。分析結果は、制度改変により子供の健康アセスメントが改善され、母親の教育水準が低い場合にその影響が特に大きかったことを示唆しています。教育水準の内生性を考慮した分析手法が用いられ、さまざまな角度から頑健性の検討が行われています。
岡島さんは、1989年から2007年の沖縄を除く46都道府県のパネルデータを用い家庭の電力需要関数を推定されました。従来とは異なり長期需要弾力性に関わるラグ付き電力消費量や電力価格を明示的に内生変数として取り扱われ、暑い日の多い地域では長期・短期の価格弾力性がほぼ0であるのに対してそうでない地域では約30%、所得弾力性はほぼ両地域とも50%であることを示されました。