裁量的な財政政策の実施には長い時間がかかるということが知られており、実施ラグと言わ
れている。実施ラグは財政政策の有効性が低下する原因となりうるため、政策決定者は、財政
政策をできるだけ機動的に行おうとする。
本研究では、標準的なニュー・ケインジアン・モデルを用いて、さまざまな長さの実施ラグ
のもとにおける財政出動の有効性を比較した。その結果、名目利子率が下限制約に達している
ときには、機動的に財政政策を実施するよりも、財政出動を意図的に遅らせるほうが生産量に
与える効果が高まることを示した。一方、財政出動が将来の利上げ後にまで遅れる場合には、
意図的な財政出動の遅れは財政出動の効果を低めることも示した。このような実施ラグの望ま
しさは名目利子率が下限制約に達しているかどうかに依存する。
実施ラグが財政出動の効果を高めるという結果の直観は以下の通りである。名目利子率が下限制約に達している間には、財政出動によるインフレ率の上昇は実質利子率の低下につながり、財政出動時の消費を高める。財政出動時の消費の増加が予想されると、家計は消費水準を平準化しようとして、財政出動が実施される前にも消費を増やそうとする。この場合、財政出動の実施が遅ければ遅いほど、消費が増える期間が長くなり、財政出動の効果は高まる。
(作成)二羽 秀和、敦賀 貴之