日本語での研究紹介


流動性を持つ複数の資産が存在する経済における一般均衡


原題: General Equilibrium with Multiple Liquid Assets
著者: Lukas Altermatt, 岩﨑康平, and Randall Wright
Accepted for publication in Review of Economic Dynamics

 貨幣は交換手段として使われることにより取引を促進する。このとき、貨幣は流動性を持つと言われる。貨幣に限らず、資産は交換手段や担保として使われることにより、流動性を持つ。本研究では、流動性を持つ資産が貨幣、株式のような配当を生む資産、そして資本と3種類存在する経済において、各資産の価値がどのように決まるか、そして金融政策はそれらの価値にどのような影響を持つかを明らかにしている。

 3種類の資産を持つモデルでは、2種類の資産のみを持つモデルとは質的に異なる結果が得られる。まず、資産の価値が時間を通じて一定である状態、つまり経済の長期的な行き先における結果を述べる。例えば、貨幣と資本の2種類の資産のみを持つモデルで示されているマンデル・トービン効果というものがある。これは、インフレーションが起きると、貨幣の価値が下がり、それに代替する資本の価値が上がるという効果である。貨幣と資本の他にもう一つ資産が存在する場合、インフレーションは貨幣の価値を下げるが、その代替となる資産が複数存在するので、資本の価値が下がる場合がある。したがって、2種類の資産のみを持つモデルで得られていた効果が、3種類の資産を持つモデルでは成り立たない場合がある。資産の価値が時間とともに変化する状態を考えた場合でも、複数の資産の存在が資産の価値の変動に影響を与えることを本研究では示している。

 質的な分析だけではなく、量的な分析においても、複数の資産の存在は結果に影響を与える。例えば、本研究ではインフレーションが経済に与えるコストを推定している。インフレーションが起きれば、貨幣の価値が下がり、取引を阻害する。このコストが、貨幣以外に流動性を持った資産が存在する場合のほうが高くなることが明らかになった。したがって、複数の流動性を持つ資産を同一のモデルで分析することは、質的な分析においても、量的な分析においても、重要であることがわかった。




(作成)岩﨑康平