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拠点長 ご挨拶
人間行動と社会経済のダイナミクス - 現実の人間行動を重視した新しい経済学

2008年後半、アメリカのサブプライム問題から始まった不況は、短期間のうちに世界中に広がっていきました。日本でも株価が大きく下がり、経済成長率が低下し、失業率が上昇しています。経済学の役割は、このような不況や貧困問題の解決を考え、人々を豊かにするための世の中の仕組みを考えることです。

伝統的な経済学は人間が「合理的」だということを前提にしてきました。個々の消費者や企業が合理的だという仮定は非現実的だと感じるかもしれませんが、非合理な行動をとっていると経済競争によって淘汰されていくので、経済全体の動きは合理性をもとに説明することはある程度うまくいくのです。

ところが、バブル崩壊による不況や消費者金融による多重債務といった問題は、今までの経済学が想定してきた合理性のもとでは発生しないはずの問題です。そこで、今までの経済学よりも現実の人々の選択行動を取り入れた「行動経済学」と呼ばれる経済学が新しい経済学の潮流となってきています。様々な経済学研究の結果、人間は特定のパターンで非合理な意思決定をすることが分かってきました。行動経済学は、そのような特定のパターンの非合理性を経済学に取り入れていこうとしている研究分野なのです。経済学研究科と社会経済研究所を中心にしたグローバルCOEは、行動経済学に関する日本での研究拠点を築いています。具体的な研究を紹介しましょう。

「合理性」を前提にすると、不況を説明できません。というのは、モノが売れなくて、失業者が発生していれば、モノの値段が下がったり、賃金が下がることで、売れ残りや失業問題は解消してしまうからです。不況を説明する上で、有力な仮説になっているのは、お金に対する人々の好みが特別だと考える方法です。世の中のたいていのものは、より多くもったり消費したりすると、うれしさが大きくなる程度は減っていくものです。しかし、お金はいくら多くもらってもうれしい、という特徴があります。このようなお金の特殊性こそが、消費が減って不況になる原因なのです。

肥満という問題も行動経済学の研究対象になっています。太るか痩せるかというのは、今どれだけ食べるか、ということと将来どれだけ太るか、という現在と将来の間を天秤にかけて人々が決めていると考えることができます。これは、ちょうど今お金を使って楽しい生活をするか、貯金して将来豊かな生活をするかという経済的な意思決定とそっくりなのです。一度決めたことをしっかり守るという意味で合理的な人を想定すると、現在太っている人は、全てそのような計算をした結果、合理的に太っているということになります。しかし、それでは、太っていることを悩んでダイエットに励む人が多いという事実と矛盾してしまします。そこで、行動経済学では、人々は目先の利益を過大に評価してしまって、後悔する傾向があるという特性を取り入れて、肥満を説明し、その解決のための政策を提案します。消費者金融における多重債務問題も肥満と似た問題になります。

自分自身の所得が高くても、他の人がもっと高い所得を得ていることを知ると、知らなかった時よりも満足度が下がってしまうことがあります。そのような、社会の格差が、経済行動にどのような影響を与えるかという研究も行動経済学の一分野です。

脳科学との共同研究も新たな試みです。機能的MRIの中に入ってもらった被験者に対して経済実験をして、意志決定の際に脳のどこが活動しているかを調べて、非合理な行動が生物学的な特性を反映しているのかを明らかにするのです。また、双生児を使って、意志決定の特徴が遺伝的なものかどうかを調べる研究も進めています。このように、行動経済学は、心理学、社会学、脳科学と経済学との融合分野だと言えます。私たちのグローバルCOEは、経済学者、社会学者、心理学者、脳科学者との共同研究によって、新しい経済学を構築し、経済問題を解決することを目指しています。