Institute of Social and Economic Research, Osaka University

 
 

プロジェクト概要

 20世紀末期から急速に発展した 実験・行動経済学は、人間の行動はこれまで経済学が仮定してきた合理的な意思決定に基づくものではなく、人間の認知・情報処理能力の制限や、その時の感情、そして、その他多くの心理的な要素に左右されることを明らかにしてきた。
(Kahneman 2011, Thaler 2015)。そして、ノーベル経済学賞がこの分野の先駆者であるKahneman, Smith, Thalerらに授与されたことも影響して、近年、これらの知見は専門家のみならず一般の人々にも知られるようになり、Sunstein and Thaler (2008)のNudgeをはじめとして、行動経済学の知見を取り入れた制度設計や政策立案の動きも多く出てきている。
しかし、これらの学問的な成果は個々の消費者や投資家が意思決定する際に気をつけるべき心理的バイアスとして認識されていることも多く、そのマクロ経済的な影響に関しては専門家の間でも懐疑的な見方をする人がまだ多い。これは、それらの心理的バイアスは市場競争や多くの意思決定者の相互作用を通じて打ち消され、経済全体としては合理的な意思決定に基づいた行動として分析できるものに収束するという考えを持つ専門家が多いからである。
しかし、2007年に米国で端を発した世界同時金融危機に際し、当時の欧州中央銀行Trichet総裁が、既存のマクロ経済学に基づいた政策が有効でなかったことから、新たなマクロ経済政策の研究の必要性に言及した際、危機時のパニック行動など必ずしも合理的ではない行動等を考慮するべく、行動経済学の知見を活かすことを提案するなど(Trichet, 2011)、「これまで実験・行動経済学がミクロレベルで明らかにしてきた人間の限定合理的な行動のマクロ経済学的な含意は何か?」という本研究の中心をなす問いを明らかにする研究への期待が、政策担当者からも高まっている。

↑ PAGE TOP