経済制度設計の国際的研究ネットワークの形成

事業目的

本プログラムでは、21世紀の大規模かつ多様な世界的変化に対応した望ましい経済制度について研究します。21世紀に入り、先進国の高度成長の終焉、高齢化社会の到来、新興国の台頭、IT産業の進展、経済・金融のますますの国際化など、世界的に大規模な変化が起きています。日本を含む世界各国はうまく対応できず、世界でいろいろな混乱が生じています。そのような変化に対応するために、各国のいろいろな制度を再設計することは、火急の課題であります。その中でも、経済制度の再設計は、特に重要であり、本プログラムが取り組む課題です。
伝統的な経済学では、制度を過去の経緯や社会によって与えられたものとして扱い、その制度のもとで、経済現象や政策効果等を分析してきました。それに対して、本プログラムでは、制度そのものを分析対象の中心にします。ここで想定する経済制度は多岐に渡っており、対象に応じて分析課題・手法も異なります。本プログラムでは、計画の出発点として以下の(1)から(3)の研究課題に着手し、必要に応じて課題を増やします。また、(4)のような制度設計の一般的理論についても研究を進めます。

(1)産業組織論と規制の制度設計

著しいスピードで進んでいる技術革新に対応するために企業の組織構造は大きく変化し、この組織変革それ自身が技術革新への更なる原動力となって更なる変化を生みだしています。また、新興国市場の躍進による消費拡大や国内の高齢化社会到来による消費者の嗜好変化などを通じて、企業が直面する市場環境は大きく変化し、それによって時代に相応しい企業像も大きく変化しています。このような変化の激しい時代にあって、必要とされる産業政策や企業活動を取り巻く規制も大きく変化させる必要があります。そこで、組織変革に影響を与える政策や規制を取り上げて、その経済活動への影響について分析します。

(2)技術革新の制度設計

研究技術開発とその市場化・製品化は、社会を発展させる要因の1つです。また、1国の国際競争力を規定する最重要要因の1つでもあります。研究技術開発は産学官の連携が必要な領域であるが、これらの間での連携を円滑に行うためにどのような経済制度設計をすべきか研究します。その中でも特に、民間との連携や産業政策などによって、学術研究から生まれる新技術の市場化・商品化を促進した時に、大学における基礎研究や応用研究を含めた学術研究にどの様な影響を与えるか分析することは重要な課題です。近視眼的に市場化・商品化を推進した時に、基礎研究に従事する研究者を減らし、それが長期で見たときの社会全体での研究基盤育成に影響を与えるなど、大学での研究成果の市場化には大きな問題があります。この点を考慮に入れた形で、技術革新の問題について経済分析を行います。

(3)アンケート・データによる実証的分析と社会経済制度設計

第二次世界大戦後の安定的な経済成長の結果として多くの人々が所得を増加させたにもかかわらず、その所得増加が必ずしも社会の人々の幸福感に結びついていないことが、世界各国のアンケート調査で明らかになっています。経済学の最終的な目標が、人々が幸福を感じながら暮らす社会を実現する、つまり厚生を最大化する社会制度を実現することとするならば、これは根本的な問題と考えられます。幸福度研究を進めることで、所得以外で幸福感と関連のある要素と、その影響を解明し、人々が幸福を実感できる社会経済制度の設計に活かします。

(4)制度設計の基礎理論

経済制度の変化は、人々・企業の行動の変化を通じて、資源配分を変化させます。社会的目的に応じて適切に制度設計を行うためには、人々・企業の行動の変化を十分に織り込む必要があります。その人々・企業の行動の変化の分析には、ゲーム理論が有用であり、経済学の分野では、ゲーム理論の応用として、メカニズム・デザインという理論が発展してきました。制度設計の基礎理論として、メカニズム・デザインの研究を進めます。