Institute of Social and Economic Research, Osaka University

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研究の背景・目的

2008年のリーマンショック以降、長期経済停滞・資産価格高騰・格差拡大などの問題が起きている。従来の経済理論では、これらを物価調整の遅れや独占力などの財市場の歪み、賃金調整の遅れなどの労働市場の歪み、借り手の信用不足などによる金融市場の歪みなどから説明しようしている。しかし、2008年以降、これらの歪みが偶然同時に深刻化したとは考えにくい。また、多くの先進国で生産および市場調整の効率化や金融緩和などにより歪みの解消を目指したが、資産価格は膨張しても消費や所得は低迷し、経済格差も拡大している。
本研究では、これらの原因を市場の歪みではなく人間の資産選好に求め、それを取り入れたマクロ経済動学体系を構築して、これらの問題を同時に分析できる統一理論を構築する。さらに、資産選好の性質をアンケートや実験で確かめるとともに、これらの問題を同時に解決する新たなミクロ・マクロの政策パッケージを探る。

研究の方法

下記の3つのサブプロジェクトに分けて、本プロジェクトを実施する。


図1 研究テーマの相互関連

サブプロジェクト①:
人々の消費への欲望(消費選好)と資産保有に対する欲望(資産選好)の相対的強さから、高度成長から低成長への変遷、豊かな社会の長期経済停滞と資産価格高騰、長期的格差拡大傾向を説明できる統一的マクロ経済理論を構築する。また、それをもとに、これらの問題を総合的に解決するためのマクロ経済政策を提示する。
サブプロジェクト②:
大規模なアンケート調査と経済実験により、現実の人間が持つ資産選好の特性を定量的に明らかにする。アンケートでは、回答者の実際の消費額を基準に、仮想的な年収・資産の組み合わせに対応する消費水準を聞き、消費と資産への相対的選好の特徴を調べる。
サブプロジェクト③:
資産選好が生む消費低迷下で消費を刺激するための産業政策の立案、総需要不足下での遊休資源活用ための制度設計を行う。人々の欲望を資産から消費に向けるには、消費の魅了を向上させる新製品開発が重要である。企業による生産効率化ではなく新たな需要を生む知識探索を促す組織や市場環境・産業構造の要因を特定し、イノベーション促進のための制度の設計に取り組む。

期待される成果と意義

従来、経済停滞、実体経済と金融の乖離、格差拡大などの諸問題は、生産非効率性や市場制度の歪み、情報の不完全性、人々の能力や個性の違いなどから、各要因に応じて別々に説明されてきた。本研究により、これらを消費と資産への相対的選好から統一的に説明できる新たな理論体系が構築される。 これにより、先進諸国が直面し、今後深刻化すると思われる上記の諸問題に総合的に対処できる政策パッケージが立案できると期待される。


図2 消費・資産選好とマクロの諸問題

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