第20回 社研・森口賞 受賞者


森口賞  安東 宇 / Sakai Ando (Columbia University) 
論文
Size-dependent Policies and Efficient Firm Creation
講評
多くの国において、小規模企業に課税上等の優遇措置を与えるという、規模依存の政策(Size Dependent Rule: SDP)が行われている。従来、SDPは歪みをもたらし効率性を損なうと考えられていた。安藤論文は起業家のリスク回避行動を考慮すると、無政策の元では企業参入が過小になることに注目した。この場合、小規模企業(スタートアップ企業)をある程度優遇すれば、起業のリスクを減らす事を通じて企業参入を増やし、経済厚生を改善させることを示した。しかし、金融に摩擦がある状況においては、そもそも小規模企業が過剰になっているので、同様の政策は厚生を損なう事も示された。このことは、先進国・途上国で異なる政策の妥当性を示唆している。本研究は企業分布の動学的な変化を扱った理論的に高度な論文であると同時に、現実の制度を背景とした実践的な政策論文でもあり、極めて高く評価できる。

   




入選 野田 俊也 / Shunya Noda (Stanford University)
論文
Full Surplus Extraction and within-period Ex Post Implementation in Dynamic Environments
講評
野田論文は動学的環境におけるメカニズムデザインに関する理論研究である。Cremer-McLean くじを動学環境に応用した場合、静学的状況における同様のメカニズムよりも緩い状況の下で、完全余剰抽出が可能となることが示された。また、提示されたメカニズムは,たとえそれぞれのエージェントが,他のエージェントのタイプを含む全ての情報を知っていたとしても正直に申告することが最適になるという極めて強い制約条件(within-period ex post incentive compatibility)を満たしており,現実に適用することが困難であると考えられていたCremer-McLeanメカニズムの応用可能性について新たな洞察を与えた点が特に高く評価できる。

   



2017年12月6日におこなわれた報告会の様子です。

森口賞内規