日本語での研究紹介


実験ナッシュプログラム:非協力対協力交渉実験の比較
"An experimental Nash program: A comparison of non-cooperative v.s. cooperative bargaining experiments" ISER Discussion paper 1221
ナッシュプログラムの一実験:シャプレー値を実現する二つの戦略メカニズムの比較
"An Experiment on the Nash Program: Comparing Two Strategic Mechanisms Implementing the Shapley Value" ISER Discussion paper 1175
入札を通じて提案者を決めてシャプレー値を実現する影響の実験分析
"Cost of Complexity in Implementing the Shapley Value by Choosing a Proposer through a Bidding Procedure" ISER Discussion paper 1176
Winterの交渉メカニズムの実験
"An Experiment on Demand Commitment Bargaining" ISER Discussion paper 1152, Dynamics Games and Applications
著者: Michela Chessa, Nobuyuki Hanaki, Aymeric Lardon and Takashi Yamada

この研究プログラムは、ナッシュプログラムと呼ばれるゲーム理論の研究プログラムの実験研究である。ゲーム理論には、協力ゲーム理論と非協力ゲーム理論の二つの大きな理論分析の枠組みがある。後者では、戦略的な意思決定主体を仮定し、彼らの相互作用の均衡解を分析する。前者では、意思決定主体の戦略的な行動は仮定せずに、一定の公理の組みを満たす解を分析する。ナッシュプログラムは、この二つの理論分析の枠組みを接合しようとする試みであり、元々は、ナッシュが、自らが導出した二人交渉ゲームの協力ゲーム解(Nash, 1950)を、非協力ゲームの均衡解として導出することを通じて(Nash, 1953)、その解が様々な状況に適用可能なことを示したことから始まっている。

ナッシュプログラムの理論研究で、最も注目された協力ゲームの解概念は、シャプレー値(Shapley, 1953)であり、Gul (1989), Winter (1994, Winter), Hart and Mas-Colelle(1996, H-MC), Pérez-Castrillo and Wettstein (2001, PC-W)をはじめ、多くの研究者がそれを均衡とする非協力ゲームを提案している。

図は、ある3人譲渡可能効用ゲーム(協力ゲーム)における、Winterの均衡解(SOLw(v))、H-MCの均衡解(SOLH-MC(v))、そして、シャプレー値(φ(v))を示している。


しかし、これらの提案されたメカニズムが理論分析が予測するようにシャプレー値を実現できるのかを検証した研究は存在しない。そこで、我々の一連の実験研究では、

  • DP 1221で、DP1775で実施した非協力ゲームに基づいた二つのメカニズムに基づいた交渉ゲーム実験の結果と、要求ベース、提案ベースではあるが、協力ゲームに基づいた構造のあまりない交渉実験との結果を比較した。
  • DP 1175で、プレイヤーの要求ベースのメカニズムであるWinterと、プレイヤーの提案(とそれに対しての投票)ベースのメカニズムであるH-MCを比較し、
  • DP 1176では、どちらも提案ベースであるが、提案者がランダムに決まり、シャプレー値を期待値として実現するH-MCと提案者を入札によって決め、シャプレー値を唯一の均衡として実現するPC-Wを比較し、さらに、
  • DP 1152では、DP1175で考察したWinterが、元々のモデルを単純化した(提携に参加できないプレイヤーがいても繰り返しなし)ものであったため、それを元のモデル(繰り返しはあるが、繰り返しの際に受け取る利得が下がる)により近づけたものとを比較した。

4人譲渡可能効用ゲームを用いた実験から得られた結果は以下の通りである。

  • DP1152では、繰り返しがあるのかないのか、また繰り返しがある場合の利得の下がり方の大小は、効率性や配分のシャプレー値からの乖離等、実験で注目した指標に関して影響を与えなかった。
  • DP 1175では、提案ベースのH-MCは、Winterより効率的である一方、効率的な配分を達成したグループに注目すると、Winter方が、H-MCよりもシャプレー値により近い配分を達成した。
  • DP 1176では、PC-Wは、H-MCよりも非効率的であり、かつ、配分もシャプレー値からより外れたものであることが観察された。
  • DP 1221では、協力ゲームに基づいた構造のない実験の方が、効率的な結果を達成すること、そして、この枠組みの中では、交渉が要求ベースであるか、提案ベースであるかには、大きな差がないことが観察された。

(作成) 花木伸行