日本語での研究紹介


購買履歴を利用した個別価格の提示と情報共有の可能性


Chongwoo Choe, Noriaki Matsushima, Mark J. Tremblay, “Behavior-based personalized pricing: When firms can share customer information,” International Journal of Industrial Organization

一般に企業が単独で有する個人情報は競争優位をもたらすと考えられるが、本研究では個人の選好に関する情報を用いて消費者ごとに異なる個別の価格が提示できる競争環境を想定して、競合する企業の間で個人情報を共有する誘因があるか否か理論分析した。 具体的には、複占市場で、2社が2期間競争すると仮定して、企業は1期目に取引した消費者の個人情報を入手することが可能で、この情報を用いて2期目には1期目に取引した消費者に個別価格を提示できる市場環境を設定した。 この設定の下で、1期目の競争が始まる前に、「1期目の供給を通じて入手する個人情報を2期目の競争が始まる前に共有するか否か」決定できるとした。 分析した結果、企業には個人情報の共有を約束する誘因があり、約束した結果として消費者の便益が損なわれることを示した。 この結果が、一部消費者の選好が2期目になった時に変化しても成立し続けることも示した。 いくつかの業界では情報共有の合意をした上で競争することもあり、本研究の結果は情報共有が生じうる競争環境を明らかにするとともに、その社会厚生への影響も明らかにした貢献がある。

(作成)松島法明、奥山鈴香