日本語での研究紹介


途上国開放経済で「恒常所得仮説」が成立する条件は?


Dan Cao, Jean-Paul L’Huillier, Donghoon Yoo (2022), “When is the Trend the Cycle?” ISER Discussion Paper No.1177.

新興国では、生産よりも消費の変動が大きく、経常収支が変動し易いという特徴がある。この特徴を理論モデルで説明するため、過去多くの研究が行われてきた。本研究で注目するのは、小国開放経済のリアルビジネスサイクル(RBC)モデルに、恒久的な生産性の変動(トレンドショック)を導入する方法だ。生産性の変動が恒久的だと人々が思えば、将来の所得も恒久的に変化すると予想するので、生涯を通じた所得合計の予想は大きく影響を受ける。その結果、生産性の変動に対応して、消費者は生産以上に消費を大きく動かし、それによって経常収支(生産と消費投資合計の差)も変動することになる。

このロジックは、「恒常所得仮説」、つまり「人々の消費は、長期的な所得のみによって決まる」というミルトン・フリードマンが提唱した伝統的な考え方と共通している。ただし、これまでの新興国の国際理論モデルでは、長期的な所得以外にも利子率が消費に与える影響もあり、必ずしも「恒常所得仮説」が厳密に成立するわけではなかった。

そこで、本研究では、従来のモデルにどのような条件をおけば、「恒常所得仮説」が成立するかを理論的に示した。その条件のポイントは、新興国の借入が嵩んだ時に、金利があまり上昇しないという条件だ。「恒常所得仮説」が成り立っているとすると、生産性に対する恒常的なショック(トレンド・ショック)が起こった時、消費が大きく刺激される。この時、消費の増加を海外からの借入でまかなうため、借入が増える。しかし、もし借入の増加に伴って金利が上昇すると消費の増加が一部相殺されてしまい、「恒常所得仮説」が成り立たなくなってしまうのだ。

「恒常所得仮説」とは、恒久的なショック(左図)では消費は大きく変動するが、一時的なショック(右図)では消費はあまり影響を受けないという仮説だ。利子が債務の大きさにどれほど影響を受けるか(Ψ)というパラメータが小さいほど、「恒常所得仮説」が良く成り立っていることがわかる。

(作成) 三上亮・堀井亮