日本語での研究紹介


耐久財生産者は投入物生産者と排他的取引関係を構築すべきなのか


Which is Better for Durable Goods Producers, Exclusive or Open Supply Chain?
著者:Hiroshi Kitamura, Noriaki Matsushima, and Misato Sato
Accepted in Journal of Economics & Management Strategy

 本研究では、耐久消費財を生産する企業による投入物取引関係の選択について経済理論により検討し、その理論上の結果が持つ社会厚生上の意義を検討している。取引関係選択の中でも、特定の投入物生産者のみと取引する排他条件付取引契約の形成可能性に注目する。最終消費者と取引を行う小売部門を統合している耐久消費財生産者は独占であることを仮定し、この独占企業が2期間にわたり財を販売する状況を設定した。この設定に、独占生産者に投入物を供給する現存川上企業と、2期目に参入してくる効率的な新規川上企業を導入し、将来起こる参入の阻止を目的とした排他条件付取引契約が1期目に成立するか否か検討した。設定の性質上、排他条件付取引契約が実現すると効率的な新規参入が阻止されることで社会厚生が損なわれる状況になっている。
  純粋な排他条件付取引契約の効果を分析するため、現存川上企業による技術投資などは検討せずに、1期目の排他条件付取引契約が実現するか否か検討した。その結果、川上企業と川下企業の間で取り交わされる取引条件の料金体系が二部料金の場合(川下企業から川上企業に支払われる金額が投入物の調達量に比例する部分(卸売価格)に加えて調達量とは無関係に支払う固定料金も支払う料金体系の場合)、1期目と比較した2期目の重要度、いわゆる「割引因子」の大きさとは関係なく必ず排他条件付取引契約が実現することを明らかにした。耐久財市場において排他条件付取引契約が実現しやすいことを示したことは新しく、産業組織の理論や経営学の分野に対する貢献がある。



論文における市場構造の概略

 主要な結果の背景には、耐久消費財市場における独占生産者の価格設定方法が関係している。耐久消費財が2期間に渡って販売される場合、1期目の販売が終わったのちに耐久財を買わずに市場に残っている消費者は支払い意思額が低く、2期目には市場に残った消費者向けの小売価格を低くして販売促進する必要がある。この販売促進は現実にも見られるが、この販売促進を目的とした低い小売価格を予想して1期目の購入を控えて2期目に購入を先延ばしする消費者もいる。この一部消費者による買い控えが1期目の収益性を悪化させる要因となる。この収益性悪化の要因と排他条件付取引契約の関係を以下で説明する。
 排他条件付取引契約が成立している場合、1期目において、現存川上企業は契約当事者が2期間を通じて得る利潤を考慮して二部料金を設定する。2期目の小売価格が低くならないようにするため、1期目の卸売価格を自身の限界費用(投入物1単位あたり費用)よりも高くすることで取引量を抑制する。対して、排他条件付取引契約が成立していない場合、2期目に新規川上企業が参入して川上市場を奪うため、現存川上企業は2期目のことを考慮した二部料金を設定しない。あたかも1期間だけで市場が閉じるものとして二部料金を設定するため、1期目の卸売価格を自身の限界費用と同じにした上で、固定料金を通じて可能な限り利潤を得ようとする。よって、排他条件付取引契約が成立すると、現存川上企業が1期目に設定する二部料金が契約当事者の利害と一致するものになる分だけ当事者全体の利潤が上昇するので、割引因子の大きさとは関係なく排他条件付取引契約を成立させる誘因が契約当事者にある。

(作成)北村紘、佐藤美里、松島法明