日本語での研究紹介


医薬品市場では製品固有の広告を規制するべきか?


原題: Should Product-Specific Advertisement be Regulated in Pharmaceutical Markets?
著者: 石田潤一郎, 髙原豪
Discussion Paper No. 1182, July 2022
Accepted in Journal of Economics & Management Strategy

本研究は, 処方箋を要する医薬品の消費者向け広告 (DTCA) のコンテンツ規制について分析した論文である. 米国では, DTCA中に製品固有の情報 (製品名, 有効性, 安全性等) を含めることが許容されている (Product-specific DTCA). この種のDTCAは消費者に偏った知識を与え適正な診療を阻害するため, 臨床医からは規制を求める声も多く, 疾病の存在や一般的な治療法の紹介に限定するDTCA (Category-specific DTCA) への規制導入が求められている.

Product-specificとCategory-specificとの違いは, DTCAがライバル社製品の需要に与える影響にある. Category-specific DTCAは製品固有の情報を含んでいないため, 消費者は医師の処方決定をそのまま受け入れることから, 自社のDTCAは他社製品の需要も増やす効果を持つ. それに対しProduct-specific DTCAに触れた消費者は特定製品に固執し, また医師がそのような消費者を説得のためには時間を要するので, 消費者の要求する製品をそのまま処方する. 従って自社のDTCAはライバル社製品の需要を奪う効果を持つ.

主要な結果は以下の通りである.

  1. Product-specific DTCAを規制することは, 企業利潤を増やす場合がある
  2. Product-specific DTCAを規制することは, 消費者にとって有害な場合がある
  3. Product-specific DTCAを許容している下で, 医師の説得費用が増大することは消費者にとって有益な場合がある

本研究の貢献は, 先行研究では注目されていなかったDTCAのコンテンツ規制がもたらす影響を明示的に分析した点にある. また, DTCAを規制することが医薬品産業にとって望ましく, 消費者にとっては不利益となるケースがあることを示したことも特筆すべき点である.



DTCAのコンテンツ規制の効果 (1行目: 需要量の差, 2行目: 利潤の差, 3行目: 消費者余剰の差)

(作成)髙原豪・石田潤一郎