近年の実験経済学研究では,認知能力やリスク選好・社会的選好などの個人属性を 測定し,属性変数間の関係や,個人属性と実験ゲームにおける行動の間の関係を明らか にする研究が増えている.たとえば,認知能力が高い人ほど進んでリスクを取る傾向が あること (Dohmen, et al., 2010, AER) や,繰り返し囚人のジレンマゲームにおいて,認 知能力が高い参加者同士のグループで協力均衡がより早期に実現すること (Proto,etal., 2019, JPE) が報告されている.
個人属性の測定は,実験室実験から得られる知見について,外的妥当性,とりわけを サンプルの代表性を検証する上でも重要である.実験経済学における実験室実験はしば しば,実施の容易さのために,大学生のサンプルを使って行われる.しかしながら,大 学生サンプルから得られた実験結果を,より一般的な集団に適用することが可能かどう かは自明ではない.この懸念に対処するために,SnowbergandYariv(2021,AER) はカリ フォルニア工科大学の学生サンプルとアメリカにおける一般人サンプルの両方で同一 の実験課題を実施して比較検討を行い,属性変数間の相関関係の構造が 2 つのサンプル の間で類似していることを明らかにした.この結果は,学生サンプルを用いた実験研究 の外的妥当性を支持する証拠の一つである.
本研究では,大阪大学社会経済研究所が管理する実験参加者プールに登録されてい る大阪大学の学生と日本国内の一般人サンプル(オンライン調査会社 GMO リサーチの アンケート回答者パネルの登録者)を対象に,オンラインアンケート形式による個人属 性測定実験を実施し,2 つのサンプルを比較した.個人属性変数として,認知能力,心 の理論の能力,リスク・時間・社会的選好,および性格特性を測定した.
認知能力の尺度において一般人サンプルよりも大阪大学学生サンプルの認知能力が 高いなど,多くの個人属性変数において学生サンプルと一般人サンプルの間で統計的に 有意な差が確認されたものの,SnowbergandYariv(2021,AER) の結果と同様,個人属性 変数の間の相関関係の構造は 2 つのサンプルで類似していることが分かった.この結果 から直ちに,大阪大学の学生を対象にしてこれまで行われてきた実験研究の結果の外的 妥当性が保証されると結論づけられるわけではないものの,変数間の相関関係に関して は大阪大学学生サンプルから得られた結果の外的妥当性について大きな懸念はないこ とが明らかとなった.
(作成)下平勇太、花木伸行