日本語での研究紹介


不況下でのプロダクト・イノベーションがもたらす景気刺激効果


原題: Economic stimulus effects of product innovation under demand stagnation
著者: 松崎大介、小野善康
ISER Discussion Paper No. 1204, March 2023

 現在、多くの先進国が総需要不足に直面し、景気刺激策として、財政・金融政策と並んでイノベーションが取り上げられる。イノベーションには、生産効率を向上させるプロセス・イノベーションと商品の品質や効用を向上させるプロダクト・イノベーションの2種類がある。前者は生産可能量を拡大し、後者は効用を引き上げるので、好況時にはいずれも人々の効用を引き上げる。しかし、総需要不足による不況時には、生産効率を引き上げても売れず、それどころか人余りを生むため、かえって不況を悪化させることがわかっている(Ono(1994、2001)。他方、プロダクト・イノベーションは直接、消費の効用を高めるため、不況下での需要を刺激するように思われている。しかし、本研究から、プロダクト・イノベーションであっても、消費を抑えて不況を悪化させる可能性があることがわかった。
 それを示すために、本研究では以下の2種類のプロダクト・イノベーションを考えた。第1は、製品の質を上げることにより、実際には同じ量を消費しているにもかかわらず、あたかもより多く消費しているかのように感じさせるもの(数量拡大型イノベーション)である。第2は、消費を増やしても飽きが来ないような製品開発(依存型イノベーション)である。このうち前者は、プロダクト・イノベーションと同じ働きがあり、消費者は少ない量で満足してしまうため、かえって需要を減らしてしまう。他方、後者の場合には、同じ量を消費してもさらに欲しい気持ちが減退しなくなるため、消費を刺激し総需要を高めて景気を拡大させる。例えば、スマホをいくら見ても飽きなくなるため、ネットサービスの需要が拡大し、総需要を引き上げるということがある。したがって、需要刺激策としてプロダクト・イノベーションを推進する場合、数量拡大型ではなく依存型イノベーションを選ぶべきである。



(作成)小野 善康