日本語での研究紹介


美しい人々に世界はどう見えている?協調性予測実験による「美人バイアス」の検証


原題: How beautiful people see the world: Cooperativeness judgments of and by beautiful people
著者: Adam Zylbersztejn, Zakaria Babutsidze, 花木伸行, Astrid Hopfensitz
Journal of Economic Behavior & Organization, Volume 218, 2024, Pages 296-308, ISSN 0167-2681

 人間には、美しい人は、その人が実際にそうであるよりも協調的だと誤って判断する「美人バイアス」の傾向がある。では、「美人バイアス」の対象となり、他人から好意的に評価されている美しい人々は、そのバイアスに気づき、他人の協調性を適正に判断できているのだろうか? この研究では、3段階からなる大規模な実験を通じて、我々の実験枠組みの中での「美人バイアス」の存在を確認した上で、他人から「美人」だと評価される人にも、そうでない人同様、「美人バイアス」の傾向があるのかどうかを検証した。実験の結果、「美人」だと評価される人にも、そうではない人同様に「美人バイアス」の傾向があることがわかった。以下、実験の詳細を説明する。
 パリ大学で実施した第1段階の実験では、参加者は二人一組の協調ゲームに参加する。このゲームでは、A役の参加者が、InかOutのどちらかを、B役の参加者は、RollかDon’t Rollのどちらかを二人同時に選ぶ。AがOutを選ぶとBの選択に関わらず二人とも5ユーロを獲得する。AがInを選び、BがDon’t Rollを選ぶと、Aは0ユーロ、Bは14ユーロを獲得する。もしBがRollを選ぶと、Bは10ユーロを獲得する一方、Aは1/6の確率で0ユーロ、残り5/6の確率で12ユーロを獲得することになる。このゲームでは、Inを選んだAが0ユーロを獲得したときに、BがDon’t Rollを選んだのか、Rollを選んだが運が悪かったのかを区別できない。また利己的なBであれば、Don’t Rollを選ぶことが予測される一方、協調的なBであれば、Rollを選ぶだろう。合計76名を対象に実験を実施し、B役を担った38名の行動データを収集した。また、ゲームに参加する前に、全ての参加者の顔写真を撮影した。
 リヨン大学で実施した第2段階の実験では、参加者は第1段階で実施したのと同様の協調ゲーム実験に参加した後、第1段階の実験でのB役の参加者の顔写真を合計20枚見て、それぞれの人の行動(RollかDon’t Rollか)を予測する実験を行った。予測実験では、Rollを選んだ人の割合が50%になるように写真が選ばれている。参加者は、表示される写真の中でRollを選んだ人の割合が50%であることは知らされているが、合計何枚の写真が表示されるのかは知らない。参加者は、ランダムに選ばれた一枚の写真について、予測が正しければ10ユーロ、間違っていれば2ユーロを獲得できた。この実験には、178人が参加し、合計89人のB役の行動データおよび予測データを収集した。また、協調ゲーム実験の前に、全ての参加者の顔写真を撮影した。
 ニース大学で実施した第3段階目の実験では、参加者は、第1、第2段階の実験でB役を担った参加者の顔写真を見ながら、第2段階で行ったのと同様の予測実験に加えて、写真の人物の美しさ、知的さ等に関しての主観的な評価を行った。この実験には103人が参加した。
 第3段階で収集したデータに基づく分析の結果、写真の人物に対する美しさの主観的な評価は、その人物の実際の行動とは相関がないにも関わらず、協調するという予測とは、正の相関があった。つまり、我々の実験枠組みで「美人バイアス」が確認された。
 また、第1段階のB役の参加者に関しての第3段階の参加者の美しさの評価と第2段階の参加者の協調行動の予測の間に正の相関が観察された。これは、予測を行っている第2段階の参加者に関する第3段階の参加者の美しさの評価とは関係なく観察された。つまり、美しい人にもそうでない人同様に「美人バイアス」が観察された。この結果「美人バイアス」の対象である美しい人々がその存在を認知し、他人の協調性に関する評価が適正にできるわけではないことが明らかになった。




図:実験の概要