日本語での研究紹介


大不況後の経済成長率鈍化:資産選好からの説明


Kazuma Inagaki,Yoshiyasu Ono and Takayuki Tsuruga, Discussion Paper No. 1174, May 2022.

2008年のリーマンショック以降、それまで高い水準を維持してきた先進諸国の経済成長率が鈍化し、各国経済は長期停滞(大不況、Great Recession)に陥っている。こうした高度成長から長期停滞への変遷は、従来の貨幣的成長モデルでは十分に説明し切れていない。

本論文では、標準的な貨幣的成長モデルに人々の資産を保有したいという欲望(資産選好)と名目賃金の下方硬直性を組み入れることにより、経済成長のこのような変遷の説明を試みている。その結果、生産能力が低い段階では経済は生産能力の伸びとともに順調に伸びていくが、成長が続いて生産能力がある程度の水準に達すると、さらに生産能力が伸びても総需要の伸びが追いつかず、総需要不足に陥って経済成長率が鈍化することが理論的に明らかになった。さらに、この分析を米国データに適用すると、米国で起こっている実質金利、インフレ率、貨幣速度などの低下や、生産量の伸びの鈍化をうまく説明できることを示した。



(作成) 小野善康