日本語での研究紹介


公営の携帯電話会社は、契約履歴による割引で国内余剰を守れるか


奥山鈴香 ISER Discussion Paper No.1179

本研究は、混合寡占市場における消費者の購買履歴に応じた価格差別が社会余剰にあたえる影響の分析を行った。本研究は、通信産業を分析の対象としている。携帯電話会社は、乗り換え割など消費者の購買履歴に応じた価格差別を行っていることはよく知られている。携帯電話会社の中には、政府に部分的または完全に所有されているものが存在し、公企業と私企業が競争を行う混合寡占市場といえるものがある。
企業が消費者の購買履歴に応じた価格差別を行う場合、企業が競争相手の消費者に割引を提供することによって消費者が好まない財を選択してしまう、社会的に望ましくないスイッチングが起きる。しかし、私企業が国内投資家に所有されている国内混合寡占では、公企業の価格設定が、社会的に望ましくない消費者のスイッチングを防ぐことが分かった。
私企業が外国投資家に完全に所有されている国際混合寡占では、公企業は価格を下げて私企業の利潤を奪い、外国への余剰の流出を防ごうとする。公企業は、消費者の購買履歴に応じた価格差別を行うことによって、この余剰の流出より減少させることができるという結果が得られた。
また、国内および国際混合寡占市場どちらにおいても、企業が消費者の購買履歴に応じた価格差別行う場合はそうでない場合よりも民営化による国内社会余剰の損失が大きいことが明らかになった。

(作成) 奥山鈴香