日本語での研究紹介


消費者が複数の企業から製品を購入する時の個別価格について


原題: Personalized Pricing When Consumers Can Purchase Multiple Items
著者: Qiuyu Lu and Noriaki Matsushima
ISER Discussion Paper No. 1192, October 2022

情報通信の進展によって個人を特定する機器が増えているため、企業は消費者ごとに異なる取引条件(個別価格)を提示できるようになっている。また、消費者の購買行動として、差別化された製品を提供する複数の企業から製品や役務を購入することが増えている。例えば、複数の動画配信事業者と契約して動画を視聴する消費者が相当な割合存在する。このような動画事業者は情報通信網を経由して役務を提供しており、技術特性上、消費者ごとの個別条件を提供しやすい状況にある。そこで本研究では、消費者が複数の企業から製品を購入できる時の個別価格について複占市場を想定して理論分析した。この設定では、消費者は何れか一社から購入するか両企業から購入するか選択する。

最初に、両企業が均一価格を採用している状況と両企業が個別価格を採用している状況を比較した。2つ目の製品購入から得られる便益(以下、追加便益)の大きさが個別価格の消費者や企業に対する影響に重要な役割を持っている。追加便益が小さい場合、各企業が個別価格を採用している状況において価格競争が厳しくなるため、両企業が個別価格を採用すると消費者余剰は大きくなり企業利潤は小さくなる。追加便益が中程度の場合、各企業が個別価格を採用している状況では消費者の需要が拡大するとともに価格競争が緩和されるため、両企業が個別価格を採用すると消費者余剰と企業利潤は大きくなる。追加便益が大きい場合、各企業が個別価格を採用している状況における消費者の需要拡大は小さく価格競争が緩いため、両企業が個別価格を採用すると消費者余剰は小さくなるが企業利潤は大きくなる。追加便益が中程度の場合と大きい場合の結果は、従来の個別価格に関する研究の結果と異なっており、本研究の新しい点である。

次に、各企業が均一価格と個別価格の何れかを選択できる状況に拡張した。その結果、両企業が個別価格を選択することは常に均衡として起こりうる。これに加えて、追加便益が小さいものの一方の企業が個別価格を採用しているならば両企業から購入する消費者が現われる場合には、両企業が均一価格を選択することも均衡として起こりうる。よって、このような追加の便益がやや小さい場合には、複数種類の均衡が起こりえる。両企業が均一価格を選択する均衡が起こりえるのは個別価格を議論した先行研究では殆ど無く、本研究の新しい点である。



横軸: 企業1の製品を追加で買った時の便益、縦軸: 企業2の製品を追加で買った時の便益
括弧内の符号: 個別価格採用による(消費者余剰の変化、企業1の利潤の変化、企業2の利潤の変化)



(作成)松島法明、盧秋雨