日本語での研究紹介


資本の効率性を上げる技術進歩と長期の経済成長


原題: A Generalized Uzawa Growth Theorem
著者: Gregory Casey, 堀井 亮
ISER Discussion Paper No.1215
Accepted for publication in Journal of Political Economy Macroeconomics

長期の経済成長の源泉は技術進歩です。大学学部レベルのマクロ経済学で経済成長について習うと、通常「技術進歩は労働増大的とする」と教わります。労働増大的というのは、同じ人数の労働者が、労働効率で計ったときに、以前よりも多くの労働をできるようになるということです。なぜ、労働増大的な技術進歩を考えるのかというと、そうでなければ経済成長率が一定にならないからです。アメリカなど欧米の先進国では長期の成長率は長期安定しているので、労働増大的な技術進歩を仮定しないとまずいのです。

少し専門的に言うと、定常成長のためには、技術進歩が労働増大的であるか、経済全体の生産関数がコブ=ダグラス型でなければならないということが知られています。これが宇沢の成長定理Uzawa Growth Theoremです。ところが、世の中の技術進歩は、必ずしも労働増大的とは限りません。たとえば、コンピュータの性能上昇や、AIやロボットなどは、資本(設備)の生産性を上げていると考える方が自然です。一方、生産関数がコブ=ダグラス型というのも、うまく当てはまらないと考えられています。なぜなら、コブ=ダグラス型生産関数の元では、労働分配率は常に一定になりますが、現実にはかなり変動しているからです。

そこで、我々の論文では宇沢の成長定理を一般化して、資本の生産性が上がり、かつコブ=ダグラス型の生産関数でないときに、どのように定常成長が可能になるかを証明しました。それにより、研究開発により資本の生産性が上がったときにどのように経済成長に貢献するかもわかるようになりました。また、コブ=ダグラス型生産関数を仮定しないので、AIやロボットなどを含む資本の技術変化が、どのように労働分配率に影響を与えるか、という応用分析もできるようになりました。今後は、この理論を応用して、経済政策の分析も行おうと考えています。




左図 資本の生産性上昇を資本財価格と消費財価格の相対価格の動きから推計
右図 資本の生産性上昇データを元に推計した労働分配率と、現実の労働分配率の動きの比較

(作成)堀井 亮